増やせ障がい者スポーツ指導員 4年後パラへ目標3万人

増やせ障がい者スポーツ指導員 4年後パラへ目標3万人

 障害がある人のスポーツ参加を支援する「障がい者スポーツ指導員」が全国に2万2214人(7月末現在)で、10年以上ほとんど増えていないことが、「公益財団法人 日本障がい者スポーツ協会」のまとめで分かった。リオデジャネイロ・パラリンピックが7日に開幕。協会は平成32年の東京大会に向け、障害者スポーツの裾野を広げるため指導員を3万人に増やしたい考え。制度の認知度を高め、研修を増やすなどの環境づくりが急務となっている。

 指導員は同協会が作った資格制度。初級から上級まで3段階あり、初級は障害の特性などについて必要な講習を受ければ取得できる。福祉施設や学校、スポーツクラブといった場所で、障害の特性に応じた運動メニューを考えたり、安全に取り組むための配慮をしたりする。

 協会によると、指導員は8年の5693人から年々増加。17年に初めて2万人を超えたが、その後は2万2千人前後で横ばいとなっている。

 7月末現在、都道府県別で最も多いのは東京の2189人で、大阪(1497人)、愛知(1383人)、神奈川(1364人)が続いた。

全国の障害者は、手帳を交付されている人だけで700万人を超える。障害者手帳を持つ人の数に対し、指導員の割合は全国平均でわずか0・31%。都道府県で比較すると、割合が高いのは大分(527人、0・65%)、鳥取(219人、0・54%)、福井(248人、0・47%)、低いのは山梨(77人、0・14%)、福島(213人、0・17%)、京都(353人、0・19%)だった。

 同協会の水原由明スポーツ推進部長は「障害者と健常者がともにスポーツを楽しめる環境作りには指導員が大きな役割を果たす。できるだけ多くの人に関心を持ってほしい」と話している。

■スポーツ参加するには

 パラリンピックの起源は、1948年のロンドン・オリンピック開会式の日に、ロンドン郊外の病院内でリハビリテーションのために行われたスポーツ大会とされる。競技の側面が注目されているが、楽しみとしてのスポーツや、機能回復訓練の一環として行われるリハビリテーションスポーツも活発化が期待される。

 日本リハビリテーション医学会(東京都新宿区)は、すべての障害者が障害の種類や程度に応じて、身近な場所で、適したスポーツやレクリエーションに参加できるよう、 ホームページ(http://www.jarm.or.jp/member/member_sports/)で情報提供を行っている。都道府県や指定都市別の障害者スポーツ協会の連絡先、競技や種目別の団体の連絡先、地域の障害者スポーツセンターの一覧表などが載っている。参考にしたい。

■娘の死きっかけに指導員で「恩返し」

 「鈴の音をよく聞いて、ボールを蹴ってみよう」

 8月下旬、東京都北区で開かれた障害者スポーツの体験イベント。世田谷区のスポーツ指導員、島良紀さん(65)がブラインドサッカーのコーナーで、目隠しをした子供たちに、音を頼りに動くよう教えていた。

 島さんは12年前に初級指導員の資格を取得。週末に開かれる大会やイベントでは、障害のある人がスポーツを楽しめるよう競技の手助けをしたり、安全に配慮をしたりする。今は中級資格を取得。東京都の陸上選手団のコーチも務める。

 障害の種類も重さも人によってさまざまで、どんな競技でも安全にできるよう対応しなければならない。食事やトイレ、競技場までの移動なども支える。「競技だけでなく、その人がやりたいことを手助けするのが、指導員の役割です」と語る。

 指導員になるきっかけを与えてくれたのは、昨年5月に29歳で亡くなった長女、幸恵さんだった。幸恵さんは1歳のときに、筋肉や靱帯(じんたい)が骨に変わる難病「進行性骨化性線維異形成症」を発症した。200万人に1人がなる病気とされ、手足の関節の動きが悪くなり、呼吸障害も引き起こす。治療方法はなく、医者には「寿命は20歳」と宣告された。

幸恵さんは高校生になった頃から自力で歩けなくなり、車椅子生活に。希望を失いかけていたとき、車椅子に乗ったままでもできるハンドサッカーに出合い、練習に励んだ。陸上競技も開始し、全国大会で優勝を果たした。

 内気な性格だったが、「できなかったことができるようになり、目が輝きを放つようになった。スポーツで得た自信が、彼女の人生の大きな糧になった」と振り返る。

 「娘の成長を支えてくれた人への恩返しに」と指導員になった島さん。「私にできることはわずかだが、一人でも多くの人に可能性を広げてほしい」と話している。

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【用語解説】障がい者スポーツ指導員

 日本障がい者スポーツ協会が公認する資格制度で、知識や経験によって初級、中級、上級の3段階がある。

 初級は地域の大会や教室でスポーツに参加するきっかけづくりなどを手助けする。中級は地域行事などで中心となり、障害者スポーツの普及・振興を担う。上級はスポーツ大会などの企画運営に携わることができる。

 初級は18歳以上で実習と講座を18時間以上受講することが条件。中級、上級は一定の活動経験が求められる。いずれも登録後、1年ごとの更新が必要となる。

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